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なぜ『ちゅらさん』は“伝説の朝ドラ”になったのか? 当時22歳の国仲涼子が「底抜けに明るくて単純」だった本当の意味

2024/04/26
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 国仲は『ドラマ・ガイド』で「沖縄の子だから明るいっていうわけではないと思うんですけどね。沖縄にも暗い人はいるから(笑)」とコメントしている。つまり、あえての明るい表現を選択していることがわかる。えりぃが例えられた太陽は、地球に夜が来ても眠ってはいない。いつだって熱を発している。太陽がやがて燃えつきてなくなるまで熱を発し続けるように。そんな自然の摂理を、国仲涼子が体現したのだ。

©文藝春秋

 人間の色とはグラデーションで、明るく見えても哀しみや苦労も抱えているという真理は誰もが知っていて、その色合いを再現することよりも、負の感情を抑えながら、前向きに明るいほうへと目を向けることこそが人間の叡智である。

東京編に登場する菅野美穂も見どころ

 えりぃがまじりっけのない純粋無垢で明るい人物である分、東京のアパートの住人で作家の、城ノ内真理亜(菅野美穂)がちょっとだけ黒い役割で出てくることでバランスをとっている。メルヘン作家なのに黒い服ばかり着てものごとを斜めから見ている真理亜は、えりぃがお土産にもってきたサーターアンダギーが気に入ってこっそりお取り寄せしたのをえりぃに見つかるというエピソードが筆者のお気に入りだ。何度見ても菅野の表情が面白い。東京編の真理亜の活躍は『ちゅらさん』の見どころのひとつである。

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上京したえりぃが暮らすアパート「一風館」の住人で、少し風変わりなメルヘン作家・真理亜を演じた菅野美穂 ©文藝春秋

 いまや、えりぃと真理亜のように白黒、役割を切り分けず、誰もが白黒を持っているふうに描くのが当たり前になってきたけれど、だからこそ、『ちゅらさん』のように徹底して白のキャラクターを筆頭に、役割を色分けして極端に描いたものが見やすくていいなあという気がしている。そういう意味でも現代の物語が失いかけているものをもった『ちゅらさん』はエターナルなのである。

 詳しくは書かないが最終回直前のえりぃの身にふりかかる出来事などは物語の典型的なパターンであるのだが、そういうことに目くじらを立てないで済むのは、演出のうまさもあるだろう。演出家たちの名前を見ると、のちに『るろうに剣心』の監督となる大友啓史、『外事警察』などを監督する堀切園健太郎、NHKのドラマ部長になる遠藤理史、『岸辺露伴』シリーズを監督する渡辺一貴、放送中の大河ドラマ『光る君へ』の制作統括である内田ゆきとエース級の実力派がそろっているのである。


*Kiroro『Best Friend』(作詞・作曲:玉城千春)

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