Aさんに説明する時以外は、Kさんは“死体散策モード”になる。ゆっくり歩き、ゆっくり周りを見渡す。時に鼻でクンクンと死臭を探す。真剣な目つきだ。Aさんは、そのKさんの後をついて歩く。
「樹海で死体をこんなに探してる人がいるなんて……。私が死んだらKさんに血眼になって探されるってことですよね? うわあ、見つかりたくないなあ。死体見つかるか、見つからないか、勝負になるわけですね。勝てる気しないなあ……」
「いやあ、もし僕が見つけても、通報しないので実質見つかっていないようなものですよ」
Kさんはニコニコと笑顔で答えた。
Kさんは本当に、死体を見つけても基本的に通報しない。
いつの間にか「自殺する気」がうせたAさん
先日は回転寿司で飯を食べていると、LINEで写真がたくさん送られてきた。
見つけたての、死体の写真だった。
顔は真っ黒になり、眼球が飛び出して、眉毛や髪の毛には降り積もった雪のようにハエの卵が産み付けられている。
パーカーの首元には「FUTURE(未来)」と書かれていて、「死体なのに未来って!!」ということでフューチャー君というあだ名がつけられていた。
Kさんの案内でその場所を訪れると、フューチャー君はすっかり骨になっていた。
前かがみに倒れて、パーカーの背中が見えた。そこには「PAST(過去)」と書かれていた。できすぎな話である。
Aさんは死体になりたいけれど、「死体を見るのは嫌!!」というので、Kさんが骨になったフューチャー君などの死体を鑑賞している間はしばらく離れた場所にいた。
離れた場所から、僕たちを見ると、随分な奇人に見えたらしい。
「死体を見たいと思う人の気持は全くわからない……。なんかKさんと村田さん見てたらこんな変な人達でも生きてるんだから、生きててもいいかもって少し思えてきました。まあまたすぐ死にたくなると思いますけど(笑)」
Aさんはいつの間にか自殺する気がやや失せていた。
確かに振り返ってみると、僕もKさんも一度も自殺を止めていない。
Kさんはもちろん止めないし、僕も常々「死なないでください!!」とか言うの、武田鉄矢みたいで気持ちわりいなあと思ってるので言わなかった。