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未解決事件を追う

「アリバイが曖昧だったのは神父だけ」水死体で発見された27歳女性を殺したのは…重要参考人だったベルギー人神父の“突然の帰国”

「アリバイが曖昧だったのは神父だけ」水死体で発見された27歳女性を殺したのは…重要参考人だったベルギー人神父の“突然の帰国”

『消えた神父、その後:再び、BOACスチュワーデス殺人事件の謎を解く』より#3

2024/04/30

genre : ライフ, 読書, 社会

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 松本清張『黒い福音』のモデルとなり、三億円事件と並んで「昭和の2大未解決事件」とされた、BOACスチュワーデス殺人事件。

 1959年3月、東京・世田谷区松原町3丁目に住む武川知子さん(当時27歳)が、叔父の誕生日会に向かう途中で行方不明になり、2日後、杉並区大宮町の善福寺川宮下橋下流50メートルで水死体となって発見される。

 重要参考人として、知子さんと親しかったベルギー人神父・ベルメルシュの名前が上がっていたにも関わらず、この事件は解決に至らず迷宮入りしてしまったのである。

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 ここでは、作家・大橋義輝氏がその神父の行方を追った『消えた神父、その後:再び、BOACスチュワーデス殺人事件の謎を解く』(共栄書房)より一部を抜粋して紹介。世間からの関心も高かった事件の捜査にストップがかかってしまったのは、一体なぜなのか――。(全3回の3回目/最初から読む

◆◆◆

神父の行動

 事件の重要参考人、限りなくクロに近い男が外国人神父――警察の上層部にとっては頭の痛い事態であった。なぜならローマ教皇庁というバックのある神父を向こうに回すのは、想像を上回る厄介さに見舞われることが目に見えている。

 それでも世間で注目を浴びている事件なだけに、現場の刑事たちは必死に犯人逮捕に向けて奔走した。この事件は単なる男と女というよりも、加害者と被害者の関係が「白人男性対日本人女性」という構図になっている。ここに焦点が当てられて関心を呼び、盛り上がったのである。

©mapo/イメージマート

 敗戦という打撃を受けた日本の精神的・肉体的な力はまだ乏しく、時代はまだ、負のトラウマを引きずっていた。それだけに、白人というコンプレックスの対象である加害者を逮捕することが、“負”の憂さを晴らす効果があると、国民一人ひとりが無意識下に察していたのかもしれない。

 それは、かの力道山が、プロレスのリング上で身長2メートル近い白人の大男たち、シャープ兄弟を空手チョップで打ちのめす様さまに熱狂した感情と重なっていたのではないか。力道山が空手チョップで打ち砕いたのは、当時の日本人の「外人(白人)コンプレックス」であり、これに日本中が熱狂したのはご存じの通りである。私も子供ながら街頭テレビに駆けつけ、大人と大人の背中の間から、背伸びしながらむさぼる如く観た覚えがある。

 こうした構図のなかでBOAC事件への関心は高まり、国会でまで取りあげられたのだった。国会質問の一部を紹介しておく。

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