「王様にまでのぼりつめてどんな気分だった?」

 ンコソパ国の王ヤンマ(渡辺碧斗)に問われたラクレス(矢野聖人)はこう答える。

「気持ちよかったよ。多くの民が犠牲になる様を見て快感を覚えたよ。君が死んだと思ったときは興奮で思わず笑みがこぼれた。力に酔っていた。正義感は罪悪感を塗り潰し簡単に人を化け物に変える。だから権力は最悪なんだ」

『王様戦隊キングオージャー』は、何度となく「これ最終回じゃないの?」という盛り上がりを見せていたが、いよいよ正真正銘のクライマックスを迎えている。これまで2023~24年を代表するドラマだと言って過言ではない深遠な人間ドラマを見せてくれている。

テレビ朝日HPより

 前半は6人の各国の王様(自称含む)と地帝国バグナラクとの戦いを軸にしながら、もう一方で、シュゴッダム国の「邪悪の王」を自称する主人公ギラ(酒井大成)と国民を犠牲にして利用することも厭わない“暴君”の兄・ラクレスとの対立の物語が並行して進んでいた。物語の中盤、ギラはラクレスを倒し正式に王の座に就き、遂にバグナラクも打ち破る。しかし後半、ダグデド率いる「宇蟲五道化」との戦いの第2部に突入すると、「シュゴ仮面」としてラクレスが復活。再びギラたちの前に立ちはだかるのだが、第42話にしてこれまでのすべての言動はダグデドを倒すための芝居だったことが明かされるのだ。ここでそれまでの非道な行いを“帳消し”にしてしまわないのが、本作の真摯さをあらわしている。ラクレスは裁判で自ら「私は多くの民を自らの意志で犠牲にしてきた。そのおぞましい事実が宇宙を救うという大義や私への情けで正当化されるようなことは未来永劫あってはならない」とハッキリと宣言し「最悪の王」として語り継がれることを選ぶのだ。冒頭に引いた台詞でもわかるように“勧善懲悪”のような単純な構図はそこにはない。

 ラクレスだけでなく、メインキャスト、いやその“側近”たちに至るまで、一人ひとりのそんな多面的な背景が丁寧に描かれている。仲間同士でも真意がどこにあるかわからない二枚舌で、まさに“外交”のような会話が交わされたりもする。果たしてこんな複雑な物語を子供は理解できるのだろうかと心配にもなるが、子供騙しに子供は騙されないことは、「スーパー戦隊」シリーズが長い歴史を通して培ってきた哲学だろう。

 同時に貫かれているのはポジティブで強いメッセージだ。第1話でヤンマによって破られた同盟が、遂に第44話で再び結ばれる。当初はそのトップに立とうとしたヤンマだが、ラクレスの言葉を聞きトップを置かないよう考えを改めた。

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source : 週刊文春 2024年2月1日号