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連載テレビ健康診断

加藤浩次の自宅をスタジオに…元フジテレビプロデューサーがNHKで見せた『めちゃイケ』っぽさ――てれびのスキマ「テレビ健康診断」

『アイカタ』(NHK総合)

note

「NHKに『めちゃイケ』の論理、持ち込んじゃダメですよ!」

 加藤浩次は、カメラの裏にいる演出の片岡飛鳥に向かって、そう笑いながら言った。片岡飛鳥といえば、フジテレビ『めちゃ×2イケてるッ!』の「総監督」として名を轟かせた男だ。2022年にフジテレビを退社し独立。久々に手掛けた地上波テレビ番組『アイカタ』が放送されたのが、なんとNHKだったのだ。この番組はサブタイトル「大切な人の【イイところ】撮ってきてください」が示す通り、ある人物にカメラを渡し、「アイカタ」の魅力を撮ってきてもらうというもの。そんな「いい番組」感漂う一方でスタジオ代わりに使用されたのは、『めちゃイケ』でもお馴染みの加藤の自宅。合間に妻・カオリが「どのくらいで終わる?」などと声を挟んでくるのも『めちゃイケ』っぽい。

片岡飛鳥氏 ©文藝春秋

 今回、カメラを渡されたのは、元『めちゃイケ』スタッフのカマタD、『映像研には手を出すな!』などの漫画家・大童澄瞳(番組ではカタカナ表記。以下同じ)、映画監督の横尾初喜、そして錦鯉・長谷川雅紀の4人。その映像は四者四様だった。カマタの「アイカタ」は妻。普段からスマホでよく撮っているというので寝起きを撮られても抵抗もしない。何しろ、それがNHKで流されるなんて思ってもないのだ。ガサツでソザツだという日常がありのままに映される。加藤が番組最後に総括して言った「今のテレビではある程度みんな作ってる。一般の人でもカメラが回っていたら作る。そこがまったくない空気感」がもっとも出ていたのが、この夫婦の映像だろう。そのソザツさが、カメラを通して見ると【イイところ】としてあらわれてくる。

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 長谷川の「アイカタ」は文字通り相方の渡辺隆。長谷川からカメラを向けられるとやはり芸人の距離感で質問にもまともに答えず素っ気ない。撮っている長谷川も照れくさいのか撮れ高がなかなか作れない。そんな状況にしびれを切らしたのか、渡辺がカメラを奪い、長谷川に向ける。すると渡辺は、「もう私なんてあなたに感謝しかしてないですからね」と謝意を伝え始めるのだ。自分が撮る側になったときに、本音を吐露できるというのが興味深い。撮影の途中、渡辺が長谷川にダメ出しを始めると、長谷川の持つカメラのアングルがズレてしまうのも面白かった。そう、カメラのアングルは、撮影者の心情を如実にあらわす。カメラの揺れは心の揺れだ。横尾の撮った妻・遠藤久美子はウソみたいに可憐で、いかに2人が愛し合っているかが如実に伝わってきた。思えば『めちゃイケ』の魅力のひとつも感情が宿ったドキュメンタリー性だった。映像は客観的な事実を映すものではなく、極めて主観的で感情を映すものなのだ。

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『アイカタ』
NHK総合 特別番組
https://www.nhk.jp/p/ts/RJ5G2XZ4N3/episode/te/VPYN1LM1Y5/

加藤浩次の自宅をスタジオに…元フジテレビプロデューサーがNHKで見せた『めちゃイケ』っぽさ――てれびのスキマ「テレビ健康診断」

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